不安、怖い
目次
不安と恐怖について
不安というものは、すべての人が必ず経験することですが、あらためて不安とは何かというのは説明が難しいかもしれません。
不安というものは「緊迫感をともなう不快な心身(こころとからだ)の状態」といえます。しばしば気持ち面だけの落ち着かなさだけにとどまらず、動悸や胃の不快感、のどの詰まる感じ、胸が締め付けられる感じなどからだの症状をともなうこともあります。
似た言葉に恐怖というものもありますが、恐怖ということばが、明確な対象を有する(例:針先が怖い、ゴキブリが怖い)ものであるのに対し、不安というものは漠然としていて特定の対象を有さない、未知・不確定なモノゴトを前にした緊張状態のことを言うことが多いといえます。
ケースで見る不安と恐怖
実在の例ではありませんが、よくみられる悩み事を架空のケースとしてお示しします。
このような症状に仮に当てはまっても、当てはまらなかったとしても、ひとりで悩まず、まずは一度ご相談ください。
ケース1
#不安・怖い
大学生の○○さん(仮名)はゼミでの発表を来週に控えていますが、そのことを思うと気が気ではありません。
もともと人前での発表は苦手というレベルではなく、手が震えて汗だくになり、声も絶え絶え、まともに話せた経験はありません。
普段の様子からすると想像がつかないので、周囲からは「下を見ながら話せば」「聴衆はぬいぐるみだと思えばいいよ」「結構みんな緊張するものだよ」などとよくあるアドバイスをされますが、それも全く受け入れられません。
高校生の時の課題研究の発表では、小グループの数人の中だけであったのにも関わらず、ドキドキと息苦しさ、胸の痛みが出てきたために、発表前に先生に心配され、救急車を呼ばれたこともありました。
今回はそうならないように…と思えば思うほど緊張感は高まり、夜もあまり眠れていません。
ケース2
#不安・怖い #学校に行けない
小学生低学年の○○さん(仮名)はもともと4歳時に軽度知的発達症、自閉スペクトラム症の診断を受け、療育をうけていました。
小学校に入ってからも、支援学級でのサポートを受けながら適応的に過ごせていました。1か月前に感染性腸炎にかかって救急受診した病院で、「きちんと手洗いをしないとばい菌が入ってくるよ」と指導されてからというもの、手洗いを入念にするようになりました。
その度合いはどんどんとひどくなり、最近では1日に10回、20回と増え、何度もせっけんを使って、ルーチン通りに洗わないと不安で仕方ありません。食べることについても不安がり、食事前には親にも入念な手洗いを要求し、食器の消毒を確認し、自分の手で食べるのが怖いと親の手で食べさせてもらうようになっています。
親もそうしないと本人が怖がってどうしようもないので従っていますが、もはや学校にも行けず、度を超した不安への対処がわからず途方に暮れています。
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ケース3
#不安・怖い #眠れない #気分が晴れない
20歳台前半の○○さん(仮名)は会社の新しい部署に移って2か月たちましたが、以前と比べて明らかに体調が悪くなっています。
残業が増えたこともありますが、直属の上司がすぐに怒って怒鳴り声をあげるタイプで、職場の中の雰囲気が悪くなってしまったことが一番ストレスに感じています。
最初のうちはその上司の文句を言ったりしながら同僚と愚痴をこぼすこともありましたが、最近ではそういうこともする元気がありません。あまり食欲もわかず、休みの日にも仕事のことが頭に浮かび、資料の準備をしながら「週明けにきっと怒鳴られるのだろう」と不安になり、そう思うだけで胸がどきどきして息苦しくなって、あまりリラックスできる時間もありません。
体調をくずしがちで、仕事場でもよくおなかを下しています。夜の睡眠はとても浅く、疲れて寝ても夜中に何度も目が覚め、悪夢も繰り返しています。朝はなんとか遅刻しないように起きますが、休めた感覚もなく、いずれ限界が来そうです。
不安や恐怖を認める代表的な疾患
上で述べた通り不安はさまざまな精神疾患のいち症状として出現するため、どの疾患の症状として出現しても不思議ではないかもしれません。
ここではまず、不安がその精神疾患の特徴となりえるものの例を一部ご紹介します。
不安や恐怖が主症状になる精神疾患の例
分離不安症 | 場面緘黙(かん黙) |
恐怖症(動物恐怖、雷恐怖、先端恐怖、嘔吐恐怖など) | 社交不安症 |
パニック症 |
また、身体疾患などのいち症状としても不安(なかにはパニック)を生じることのあるものがあるため、注意が必要です。
不安、パニック症状を認める身体疾患の例
不整脈 | 気管支喘息 |
甲状腺疾患 | 低血糖 |
てんかん | 薬物の離脱症状 |
(カフェイン・アルコールなどの中毒や離脱時にも不安感が生じることがあります)
さらに知りたい人へ
不安や恐怖について、さらに知りたい方へ詳しく記しました。
- 不安と恐怖の違いとは
- 正常な不安と病的な不安とは
- 不安に対する治療法は
などを記しています。
はじめに(再掲)
不安というものは、すべての人が必ず経験することですが、あらためて不安とは何かというのは説明が難しいかもしれません。
不安というものは「緊迫感をともなう不快な心身(こころとからだ)の状態」といえます。しばしば気持ち面だけの落ち着かなさだけにとどまらず、動悸や胃の不快感、のどの詰まる感じ、胸が締め付けられる感じなどからだの症状をともなうこともあります。
似た言葉に恐怖というものもありますが、恐怖ということばが、明確な対象を有する(例:針先が怖い、ゴキブリが怖い)ものであるのに対し、不安というものは漠然としていて特定の対象を有さない、未知・不確定なモノゴトを前にした緊張状態のことを言うことが多いといえます
正常な不安と病的な不安
不安は上で述べた通りすべての人に存在するものであり、不安や恐怖があるからこそ、いま自分に降りかかろうとする危険を適切に察知して回避しようと行動することができ、またさきざきに起こりうることを予見して対処しようと行動することができます。
いわば不安や恐怖は警告信号としての役割を持つもので、あくまでこの警告が「まとも」に動作している(すなわち、心配なことや気がかりなことがあって、それに反応して不安が生じるが、その強さも自分の中で収めていられる程度で、心配事が解消されるとともに不安が消えていく)場合には、これらの感情は正常で適応的なものといえます。
病的な不安とは、正常な不安と比べてもその度合いが著しく強かったり持続したりするもののことをいい、あるいは、心配になる理由など何らないのに不安な気持ちが湧いてきてコントロールがつかないような状態のことをいいます。
病的な不安は、それ自体が精神疾患として発症する場合もありますし、別の精神疾患の発症に伴って二次的に生じる場合もあるために、注意が必要です。
私たちが精神症状をみる際にも不安というものは、不安-抑うつ、不安-焦燥など他の症状とセットになって認められることが多いものです。
不安に対する治療法
不安に対する治療には大きく薬をつかうもの(薬物療法)と、薬以外の方法で対処していくもの(精神療法)とがあります。
どちらかよいというものでもなく、それぞれの良い面と注意する面とを知ったうえで、適切に組み合わせていくことが効果的です。
治療についての詳細は各疾患のページを参照ください。
不安に対する考え方で大事なことは、「正常な不安まで治療対象としない(不安をゼロにしようと追いかけ過ぎない)」ことであると考えます。
上でも述べたように、正常な不安は人間に本来備わっている警告信号でもあり、不安が全くないという人生は不自然なものでもあります。
病的な不安を治療介入で抑えていきながら、それでも生じる正常な不安の波を自身でコントロールできる力を身に着けていくというのが、不安の治療の目標となります。
○薬物療法
1)抗不安薬
抗不安薬と言われる不安を抑える薬を使うものがあります。たしかにこれは効果もある程度実感することもできるので一時的なとん服薬(不安が強い時にピンポイントで使う薬)として用いるために自分に合った薬を探していくことは大事です。
一方で、正常な不安に対してまで使ってしまう、とん服ではなく毎日何度も使ってしまう、などの使い方は、薬の耐性形成(だんだんと効きにくくなる)などの点、また不安に対する対処能力が育ちにくくなるという点、本来コントロールできたかもしれない心の葛藤まで押し流してしまう点などからも、第一にお勧めすることはありません。
本当に強い不安を有している場合には一時的に使用量が増えてしまうこともありますが、その場合でも症状が落ち着く傾向を見計らいながら、より良い治療法を模索します。
2)その他の薬
抗不安薬を用いる以外にも、さまざまな薬物療法の選択肢があります。
抗うつ薬、抗精神病薬、漢方薬など、抗不安薬に分類はされないけれども、抗不安作用を有する薬剤を用いる方法です。これらの薬をメインで用いることも考えられますし、補助的に用いることもあります。
一部適応外使用の薬もありますが、診断された精神疾患に適応を有する薬剤もありますので、用いるのであればどのような薬が適しているのかなどについても、外来受診時に相談されることが望ましいです。
○精神療法
不安をゼロにしよう、何の不安もない生活を取り戻そうということは、一見、健全なようですが、どうやら追及する目標としては不健全であることも多いようです。
正常な不安は人間に本来備わっている警告信号でもあり、不安が全くないという人生は不自然なものだからというのがその理由のひとつです。
病的な不安を治療で抑えていきながら、それでも生じる正常な不安の波を自身でコントロールできる力を身に着けていくというのが、不安の治療の目標となります。
外来の場ではリラクゼーション法、行動療法、認知行動療法などをベースとしたさまざまな不安を軽減するための手法を課題として、受診と受診のあいだに取り組んでいけるようサポートすることができます。