社交不安症
目次
社交不安症とは
社交不安とは、他人の注意を集める場面においてとても強い恐怖感を抱き、またその場で自身が恥をかくことや症状が露呈することを恐れて、そういった社会的状況から回避的になってしまうものをいいます。
一生のうちに一度はこの病気にかかる人(生涯有病率)は日本では約1.4%とも言われており、100人のうち1人以上は、生涯一度はこの病気になる計算です。
社交不安は気質的(性格的)な特徴に上乗せする形で発症しやすく、またうつ病や、他の不安症とも併存しやすい病気です。発症年齢も10歳前後であることも多く、不登校の一因となることもあるので注意が必要です。
社交不安症の症状、診断基準
社交不安症の患者さんは、社会的状況における著しい不安と恐怖が存在していることが診断上の本質的特徴になります。
典型的には授業中に当てられること、ミーティングで発言することといった状況を恐れ、恥ずかしい思いをするのではないかと考えます。不安に伴う身体的な反応も生じやすく、赤面、発汗、動悸、手の震え、息苦しさ、といった症状がみられ、重度になればパニック発作の基準を満たすものも存在します。
そういった状況にはなるべく出くわしたくない、と考えるのは自然で、社交不安症の方は状況回避的となり、なかには不登校、ひきこもりといった状態になる方もいます。
診断基準について
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A. 他者の注視を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安、例として社交的なやりとり (例: 雑談すること、 よく知らない人に会うこと)、見られること (例:食べたり飲んだりすること)、他者の前でなんらかの動作をすること (例:談話をすること) が含まれる.
B. その人は、ある振る舞いをするか,または不安症状を見せることが、否定的な評価を受けることになると恐れている.
C. その社交的状況はほとんど常に恐怖または不安を誘発する.
D. その社交的状況は回避され, または、強い恐怖または不安を感じながら耐え忍ばれる.
E. その恐怖または不安は、その社交的状況がもたらす現実の危険や、その社会文化的背景に釣り合わない.
F. その恐怖、不安、または回避は持続的であり、典型的には6カ月以上続く.
G. その恐怖、不安、または回避は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
H. その恐怖、不安、または回避は物質 (例: 乱用薬物, 医薬品) または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない.
I. その恐怖、不安、または回避は、パニック症、醜形恐怖症、自閉スペクトラム症といった他の精神疾患の症状では、うまく説明されない.
J. 他の医学的疾患 (例:パーキンソン病, 肥満, 熱傷や負傷による醜形) が存在している場合、その恐怖、不安、または回避は、明らかに医学的疾患とは無関係または過剰である。
◆該当すれば特定せよ
パフォーマンス限局型:その恐怖が公衆の面前で話したり動作をしたりすることに限定されている場合
まとめ
- 社交不安症の症状は、他人に注目される状況に対する強い不安と恐怖が特徴になる。
- 社交不安症の症状は様々であるが、うつや他の不安症を併存することも多い。
- 時には、不登校や引きこもりの原因になることもある。
社交不安症の原因
社交不安症の発症原因となる生物学的背景は完全に同定されていませんが、一部の遺伝学的要因の関与は複数の研究で示唆されてはいます。脳内の神経伝達物質についてもセロトニンやドパミンの関与が想定されていますが、やはり確定的なものとして存在しているわけではありません。
社会的な環境とのふれあい、その反応というのは幼少期から学習されることが多いとされます。そのため社交不安症の発症要因となりうる社会心理学的要因として、生来の性格的素因、家庭内環境、社会観念的特性などといった複数の要因が想定されるケースもあります。
たとえば親が社会的状況や対人関係の構築自体を回避する傾向にある場合、その子どもは親の傾向を受けて回避的な行動をとりやすくなるかもしれません。
そのような遺伝的、家族集積的要素を有する疾患でもあり、社交不安症の患者さんの親族がまた社交不安症を有するリスクというものは、通常に比べて約3倍程度高くなるとも言われています。
まとめ
- 社交不安症の原因には生物学的要因、社会心理学的要因など複数のものが関与する
社交不安症の治療
社交不安症をひとたび発症したとして、その治療方法にはどのようなものが考えられるでしょうか。おおきく、3つの柱に分けて考えていくとわかりやすいと思われます。
薬物療法
社交不安症の治療には精神療法も薬物療法もいずれも有効であると考えられます。薬物療法を実施する上で有効とされるものは、一般に抗うつ薬に分類されるいくつかの薬剤です。選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉の幾種類かについては保険適応も認められているものになります。不安症の治療に抗うつ薬?と疑問に思われる方もおられるかもしれませんが、抗うつ薬はその薬理作用から考えてみても不安緊張感を緩和する作用が期待できます。依存性のある薬剤であるベンゾジアゼピン系抗不安薬が用いられることもありますが、第一選択とはなりえず、少量を頓服的使用として処方されることが多いように思います。パフォーマンス限局型の社交不安症の治療においては、血圧を下げる降圧薬の一種であるβアドレナリン受容体拮抗薬が用いられることがありますが、保険適応外の使用となります。
精神療法
薬物療法は上記で述べた通り、有効な治療選択肢のひとつです。しかし社交不安症の治療の根幹は、精神療法といわれるものを活用することが重要です。精神療法にはさまざまな種類のものがありますが、主たるものとしては認知行動療法、行動療法などの技法を援用することが多いと思われます。また、より構造的に充分な時間をとってとりくんでいくためにはカウンセリングを並行していくことも有用な選択肢のひとつです。このように薬物療法だけでなく精神療法もあわせながら治療的経過を医療者と共に歩んでいくことがもっともよい治療方法となるといえます。
精神療法をする意義
- 安心して治療を続けられる
- 不安と付き合っていく心構えを涵養する
- ストレスにさらされたときの対処を考えられる
環境調整
薬物療法、精神療法の果たす役割について述べてきました。これらが主に本人に対する直接的な介入であったとするなら、環境調整とは主に本人を取り巻く(すなわち不安や恐怖を生み出す原因となる)環境因子を同定し、そちらに対する介入を試みるものになります。本人の能力的背景を考慮することも重要ですが、周囲の環境面を調整することで軽減可能なものが存在するならば、周りの協力も得ながら環境調整を行えないかを検討することは有効です。会社では、あるいは学校では?どのような配慮を加えることが現実的に可能であるのか、いわゆる合理的配慮を実施できるのか?を検討しながら、介入を行います。
まとめ
- 社交不安症には薬物療法・精神療法いずれも有用
- 環境調整を検討することは負担を減らす意味でも重要である