双極性障害(躁うつ病)

双極性障害(躁うつ病)とは

誰でも気分のいい日や悪い日があり、どちらか一方だけしかない人生というのは存在しません。

何か良いことがあった時には、気分が良くなり、ついうきうきして楽しくテンションが上がって、おしゃべりになったりします。
そして反対に、何か自分に悪いことが起こった場合には、いやな気分になり、落ち込んでテンションが下がってふさぎ込んでしまいます。

その気分の高低の程度があまりにも著しいもので、そのために社会生活を送ることがままならなくなったとき、双極性障害(躁うつ病)を疑います。日本においてはおよそ0.5%、つまり1000人に5人程度のかたが双極性障害(躁うつ病)を有していると言われます。

双極性障害(躁うつ病)の症状、診断基準

双極性障害(躁うつ病)は、気分の昂揚などの躁症状がみられる《躁状態》と気分の落ち込みなどの抑うつ症状がみられる《うつ状態》とを繰り返す病気です。躁とうつとが落ち着いているふつうの状態のときもあり、躁-ノーマル-うつという3つの相をいったりきたりすることになります。

躁状態のときにみられる症状の例

  1. 気分が良すぎてハイになりすぎる
    その結果興奮したり、イライラしすぎたりすることもあります。
  2. 眠れない
    結果として眠れないですが、眠れなくても元気だという状態になりやすいです。
  3. いろいろな考えが次々と頭に浮かぶ
    そのために仕事がはかどったというときもあれば、いろいろ思いつきすぎて逆に散逸的になりどれも中途半端になってしまうこともあります。
  4. 活動性が高まる
    急に旅行をしたくなったり会社をたちあげようとしたり、いろいろしたくなります。
    後で後悔してしまうようなこと(浪費、性的な危険行動、投資など)にも熱中してしまうこともあります。

うつ状態のときにみられる症状の例

  1. 憂うつで気持ちが沈む
    楽しいという感情も感じられなくなりますが、ひどくなると悲しいという感情も感じられなくなることがあります。
  2. ほとんどのことに対する興味を失う
  3. 眠れない
    結果として夜に色々考え込んだりして余計にしんどくなります。
    寝つきの悪さ、途中で目が覚める、早くに目が覚めるなど症状は様々です。
  4. 自分のことを責めがちになり、価値が無いように感じる
  5. 集中力が低下し物事を決められなくなる
  6. 「この世から消えたい」「死にたい」などの考えが頭を占める

その症状の程度によって、双極性障害には大きく2つのタイプにわかれます。

◎双極Ⅰ型

躁症状がとても強く、生活上でも大きな支障をきたしており、入院を要するレベルであるものをいいます。

◎双極Ⅱ型

見られる躁症状はⅠ型と同じですが、Ⅰ型ほどではないものをいいます。
Ⅰ型ほどではない=軽症で取るに足らない、ではないことに注意が必要です。
確かに躁症状は入院するレベルではないというのが基準に含まれてはいますが、未治療のままでは双極Ⅰ型とほとんど同じか、あるいはそれよりも高率に自殺リスクが高いものでもあります。

またその症状の移り変わる頻度によっても、急速交代型といわれるタイプがあります。

◎急速交代型<ラピッドサイクラー>

1年のなかで4回以上の躁病、軽躁病、抑うつエピソード(下記)を認めるもの。

こういった気分の症状の程度や躁・うつの頻度などを見極めながら適切な治療を考えていくことになります。

診断基準について

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《躁病エピソード》

気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的となる。加えて異常にかつ持続的に亢進した目標指向性の活動または活力がある。このような普段とは異なる期間が 少なくとも1週間ほぼ毎日、1日の大半において持続する。

B. 気分が障害され、活動または活力が亢進した期間中、以下の症状のうち3つ(気分が易怒性のみの場合は4つ)以上が有意の差をもつほどに示され、普段の行動とは明らかに異なった変化を象徴している。

(1) 自尊心の肥大、または誇大
(2) 睡眠欲求の減少
(3) 普段より多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感
(4) 観念奔逸、またはいくつもの考えがせめぎ合っているといった主観的な体験
(5) 注意散漫が報告される、または観察される.
(6) 目標指向性の活動の増加、または精神運動焦燥 (すなわち無意味な非目標指向性の活動)
(7) 困った結果につながる可能性が高い活動に熱中すること

C. この気分の障害は社会的または職業的機能に著しい障害を引き起こしている、あるいは自分自身または他人に害を及ぼすことを防ぐため入院が必要であるほど重篤である、または精神病性の特徴を伴う。

D. 本エピソードは、物質(例: 乱用薬物, 医薬品, または他の治療) の生理学的作用, または他の医学的疾患によるものではない。

《軽躁エピソード》

A. 気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的となる。加えて異常にかつ持続的に亢進した目標指向性の活動または活力がある、普段とは異なる期間が、少なくとも4日間ほぼ毎日、1日の大半において持続する。

B. 気分が障害され、 かつ活動または活力が亢進した期間中、 以下の症状のうち3つ(気分が易怒性のみの場合は4つ)以上が持続しており、普段の行動とは明らかに異なった変化を示しており,それらは有意の差をもつほどに示されている。

(1) 自尊心の肥大、または誇大
(2) 睡眠欲求の減少
(3) 普段より多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感
(4) 観念奔逸、またはいくつもの考えがせめぎ合っているといった主観的な体験
(5) 注意散漫が報告される、または観察される.
(6) 目標指向性の活動の増加、または精神運動焦燥
(7) 困った結果につながる可能性が高い活動に熱中すること

C. 本エピソード中は、症状のないときのその人固有のものではないような、疑う余地のない機能的変化と関連する。

D. 気分の障害や機能の変化は、他者から観察可能である。

E. 本エピソードは、社会的または職業的機能に著しい障害を引き起こしたり、または入院を必要とするほど重篤ではない。

F. 本エピソードは、物質 (例: 乱用薬物, 医薬品, あるいは他の治療) の生理学的作用によるものではない。

《抑うつエピソード》

A. 以下の症状のうち5つ(またはそれ以上) が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている. これらの症状のうち少なくとも1つは、(1) 抑うつ気分、または (2) 興味または喜びの喪失である。

(1) その人自身の言葉か他者の観察によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分
(2) その人自身の言葉か他者の観察によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日のすべて、またはほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退
(3) 有意の体重減少、または体重増加 (例: 1カ月で体重の5%以上の変化) またはほとんど毎日の食欲の減退または増加
(4) ほとんど毎日の不眠または過眠
(5) ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止 (他者によって観察可能であり、主観的感覚のみではない)
(6) ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退
(7) ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感
(8) 思考力や集中力の減退, または決断困難がほとんど毎日認められる
(9) 死についての反復思考 (死の恐怖だけではない) 。特別な計画はないが反復的な自殺念慮、または自殺企図, または自殺するためのはっきりとした計画

B. その症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

C. そのエピソードは物質の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。

まとめ

  • 双極性障害は躁状態とうつ状態とを繰り返す病気である
  • 双極Ⅰ型もⅡ型も症状の水準はことなるもののいずれも注意が必要な病態である。

双極性障害(躁うつ病)の原因

双極性障害の根本の原因というのは、いまだ不明です。しかしながら部分的にわかっていることは存在します。

遺伝的要因は双極性障害のもっとも大きな発症要因であり、家族近親者に双極性障害の親族がいるケースではより発症リスクは上昇すると言われています。

環境的要因、すなわちストレスとなるライフイベントの蓄積や、アルコールや違法薬物などの薬剤的因子も症状の増悪に関与する可能性が示唆されています。

ストレス因子は双極性障害(躁うつ病)の方においても、ストレスの多寡によって症状が悪くなったり良くなったりすることがあるため、重要な因子となります。

たとえ症状が改善傾向にあっても、自分に負荷をかけすぎたり、あるいは家庭環境で安らげる状態が全くない(High-EEと呼ばれます)場合、再発しやすい状態になると思われます。

まとめ

  • 双極性障害(躁うつ病)になる根本の原因は不明のまま
  • 遺伝的要因、環境的要因が関係するとされる
  • 再発を防ぐためにはストレスの少ない状態を目標とすることが大事 

双極性障害(躁うつ病)の治療

双極性障害(躁うつ病)の治療では、薬物療法をおこなうことが最も重要で、薬物療法を適切に実施していくことで症状の軽減および再発の予防をはかります。治療の目標は大きくいくつかの段階に分かれます。

治療の目標とされるもの

  • 躁状態、うつ状態から回復する。
  • 躁状態、うつ状態の再燃を予防する。
  • 日常生活を送ることができる。
  • 就労など社会的生活を送ることができるようになる。

これらを達成するために、双極性障害(躁うつ病)をひとたび発症したとして、その治療方法にはどのようなものが考えられるでしょうか。おおきく、3つの柱に分けて考えていくとわかりやすいと思われます。

薬物療法

双極性障害(躁うつ病)の治療を考えるうえで、もっとも大事なもののひとつになります。躁状態やうつ状態の治療のために用いられる薬は、気分安定化薬と呼ばれる薬と、一部の抗精神病薬とになります。

気分安定化薬

  • 炭酸リチウム(リーマス®)
  • バルプロ酸(デパケン®)
  • ラモトリギン(ラミクタール®)
  • カルバマゼピン(テグレトール®)

…など。

第1世代抗精神病薬(比較的昔からあるもの)

  • クロルプロマジン(コントミン®)
  • ハロペリドール(セレネース®)

…など。

第2世代抗精神病薬(比較的最近にでてきたもの)

  • オランザピン(ジプレキサ®)
  • クエチアピン(ビプレッソ®)
  • アリピプラゾール(エビリファイ®)
  • ルラシドン(ラツーダ®)

…など。

これらの薬のなかで自身にあったものを探していくことが大事です。またこれらの例に入っていない薬でも適応外使用というかたちで用いられている場合もあります。

飲み薬が基本ですが、最近では新しい選択肢も増えてきています。骨粗鬆症などからだの治療の薬でも似たようなタイプのものがあるのですが、月に1度の筋肉注射をするというものです。
注射剤をメインにすることで、注射をする手間や痛みなどというデメリットがあるのはもちろんですが、内服の手間を省けることをはじめとしたメリットもありますので、興味のある患者さんは相談してみることも一手です。

薬を安心して使っていく中で大事なことのひとつに副作用があります。
副作用のない薬は存在しませんが、副作用を極力起こさないようにする、起こったとしても早めに気づいて対処するということはとても大事なことです。
副作用が起きていないかを確認するために、場合によっては血液検査を行ったり、心電図検査を行ったりすることもありますので、受診した際に気になることがあったら相談することが望ましいです。

精神療法

薬物療法は上記で述べた通り、双極性障害(躁うつ病)の治療においてもっとも重要なものとなります。精神療法(心理療法)的関わりだけで入院が必要なレベルの躁状態を改善させることは期待できません。

双極性障害のうつ状態のときには、薬物療法だけでなく、精神療法を併用することの有効性が確認されています。
認知行動療法(CBT)、対人関係-社会リズム療法(IPSRT)、家族療法(FBT)などはとてもよい適応となります。

そして、双極性障害(躁うつ病)の患者さん、そしてその家族さんにとっても、安心して薬を継続していけるように、また安心してサポートをしていけるようにしてもらうにあたって、病気のことを知り、病気を悪化させることのあるストレスとその対処法を学んでいくことは重要であります。
そう考えると通院を続けるなかでも心理教育やコーピングの習得、気持ちの落ち着かせ方などをはじめとした精神療法にとりくんでいくことには大きな意味があると考えられます。

精神療法をする意義

  • 安心して治療を続けられる
  • (家族にとって)安心して支援ができる
  • ストレスにさらされたときの対処を考えられる

環境調整

薬物療法、精神療法の果たす役割について述べてきました。これらが主に本人に対する直接的な介入であったとするなら、環境調整とは主に本人を取り巻く(すなわちストレス因を生み出す原因となる)環境に目を配り、医療の枠組みをはなれた場所での支援を考えることです。
統合失調症のために一時的に休職せざるを得なくなった場合の職場訓練プログラム受講をはじめとするさまざまなリハビリテーションを行うこともそうですし、あるいは生活の場を話し合っていくことも環境調整のひとつです。

環境調整を行うこと

  • 社会復帰していくためのサポートを行う
  • 生活の場を安定したものにするようサポートを行う

院長 三木 祐介

(みき ゆうすけ)

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医師より一言

双極性障害(躁うつ病)という病気は決して稀ではない疾患であり、まだその発症原因などはよくわかっていないという状況ではあります。
しかしながら薬物療法および精神療法を地道に継続していくことで症状をゼロにはできないまでも、ゼロに近づけていくことはできるようになってきています。

治療のゴールは、気分の波をゼロにすることではありません(そんな人間は存在しない)。
気分のアップダウンをご自身や家族、支援者など周囲の人々でモニタリングできるようになること、黄色信号(ちょっとやばいかも?)のときに信頼できる周囲の医療者を作れること、こういったことができるようになれば治療のゴールといっても差し支えないかもしれません。

治療薬もさまざまな種類がありますが、副作用の生じる可能性もゼロではない中でありますので、ご自身にあったものをさがしていくこと、そして薬を飲み続けるということは本当に大変な作業です。
また薬が大事なことはその通りなのですが、それと同じくらい大事なことは生活の上で安心できる環境を整えることです。

生活の不安、就労の不安、家族の不安、そういったものをひとつひとつ軽んじることなく、取り組んでいけるお手伝いをしていくことが外来での主な役割になると考えています。

仮想のケースを見ながら良くなる過程をみていきましょう。

#気分の波が激しい #眠れない

20歳台の○○さん(仮名)は学生時代から快活な性格で、友人も多く、自分から率先していろいろな仕事をするため、まわりからの尊敬もあついひとでした。

入職した会社でも営業職として活発で、行動力も人付き合いも良かったため成績も良好でした。もともと元気だったのが、2週ほど前からはさらにその傾向が強くなり、夜はほとんど寝ずに友人と酒を飲み歩き、明日の仕事の準備にも明け暮れました。

営業活動はとどまることをしらず、アポイントもなしで「突撃」したり、自信たっぷりに話している最中に向こうが話そうとしてくるのを「なぜ僕が話しているのにさえぎるんだ」と不機嫌そうに制止するなど、どんどんと度を超してきています。

同居している家族も心配になってきていましたが、両親が思い出すには、過去にも何度か、今回ほどではないものの、テンションが高すぎるなと思うときが週単位でみられたことがあったようでした。
高校生時には、急に「うつになった」と引きこもって不登校になっていた時期もありましたが、その後自然に回復したため気にはしていませんでした。

受診当初には「元気なことは認めるが、こんなに調子がいいのに薬を飲むのはおかしいと思う」と不満を述べるので、その不満はもっともであると伝えながらも、眠れないいまの状況がどれくらい続けられそうか、潰れないでいけそうか、以前の「うつ」のときを繰り返さないためにも必要な治療があるのだということを話し合い、なかばしぶしぶではありましたが薬物療法を開始しました。

月単位で薬を調整する中で、いっときには強い眠気なども認めていたもののけっして不快なものではなく、「やりすぎた反動なのだな」と理解できるものでした。
家族の目から見ても落ち着きつつある状況が確認でき、自身でも周囲と揉めることが減り、ほっと胸をなでおろしています。薬については1日2回飲むのが面倒臭い、1回あたりの錠数も減らしたい、なんとかならないかと考えており、次回の外来で相談してみる予定です。

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