全般不安症(全般性不安障害)
目次
全般不安症(全般性不安障害)とは
不安というものは、ヒトが脅威を前にしたときに、戦おう、または逃げようなどといった行動をとるための正常で適応的な反応と考えられています。しかしその不安を感じる対象があまりにも広汎にわたる場合には、その不安感に振り回されてしまうでしょう。
全般不安症(全般性不安障害)とは、様々なことに不安を抱いてしまうために、身体的にも精神的にも疲弊し社会生活を送ることが困難になってしまう疾患のことを指します。比較的女性に多いとされ、成人後に発症することが多いですが、患者層は子どもから中高年に至るまで幅広く存在します。
全般不安症(全般性不安障害)の症状、診断基準
不安は誰にでも見られるものであると書いた通り、病的な不安と正常な不安との区別はときに難しい時があります。
もしもその人が仕事を失い、来月の生活を送れる目途が立たない場合に不安を感じるのは当然であると言えます。
またいつも入っている鞄のポケットに、重要なカギが入っていなかった場合に、どこにやっただろうと不安を感じるのも当然と言えます。
しかし全般不安症(全般性不安障害)の患者さんは、そのような急性におこる不安とは別に、つねに持続して、または頭の片隅に、不安感が波打っている状態です。またその不安の内容は広汎・過剰であり、対象は人間関係、経済面、政治、家庭、健康面など多岐に渡ることが多いです。
蓄財が平均並みにはあるにも関わらず「予期せぬ出費のために生活に困らないだろうか」、一度も副作用が起こったことが無い薬でも「この風邪薬を飲んでいつか肝障害が起こるのではないか」など様々な場面で不安に見舞われます。
「外出していて災害に見舞われたらどうしよう」とちょっとした買い物のときでも非常用バッグを手放せなくなるといったように、『確かにその状況になれば不安だろうが、そこまで不安がらなくても良いのではないか』と思えることもあります。
診断基準について
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A. (仕事や学業などの) 多数の出来事または活動についての過剰な不安と心配 (予期憂慮) が、起こる日のほうが起こらない日より多い状態が、少なくとも6カ月間にわたる.
B. その人は、その心配を抑制することが難しいと感じている.
C. その不安および心配は、以下の6つの症状のうち3つ(またはそれ以上) を伴っている (過去6カ月間、少なくとも数個の症状が起こる日のほうが起こらない日より多い).
注:子どもの場合は 1項目だけが必要
(1) 落ち着きのなさ、緊張感、または神経の高ぶり
(2) 疲労しやすいこと
(3) 集中困難、または心が空白になること
(4) 易怒性
(5) 筋肉の緊張
(6) 睡眠障害(入眠または睡眠維持の困難、または、落ち着かず熟眠感のない睡眠)
D. その不安、心配、または身体症状が臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている.
E. その障害は、物質(例: 乱用薬物, 医薬品) または他の医学的疾患(例: 甲状腺機能亢進症) の生理学的作用によるものではない.
F. その障害は他の精神疾患ではうまく説明されない〔例: パニック症におけるパニック発作が起こることの不安または心配社交不安症(社交恐怖)における否定的評価、強迫症における汚染または、他の強迫観念、分離不安症における愛着の対象からの分離、心的外傷後ストレス障害における外傷的出来事を思い出させるもの、神経性やせ症における体重が増加すること、身体症状症における身体的訴え、醜形恐怖症における想像上の外見上の欠点の知覚、病気不安症における深刻な病気をもつこと、または、 統合失調症または妄想性障害における妄想的信念の内容に関する不安または心配〕.
まとめ
- 全般不安症(全般性不安障害)の症状は、だらだら長続きする過剰な不安と心配が中心となる。
- その不安(予期憂慮)のために身体的にも精神的にも二次的な症状が認められる。
全般不安症(全般性不安障害)の原因
全般不安症(全般性不安障害)を発症する要因は不明です。この疾患自体は異質性の強いもの(いろいろな質の異なる疾患群の患者さんが混じる)ものであると考えられているからです。
しかしながらこのような不安を強く感じやすい状態が生じるためには、生物学的要因や心理社会的要因とがそれずれ関与しているのであろうということは推測されます。
まとめ
- 全般不安症(全般性不安障害)の原因には生物学的要因、心理社会的要因など複数のものが関与する
全般不安症(全般性不安障害)の治療
全般不安症(全般性不安障害)をひとたび発症したとして、その治療方法にはどのようなものが考えられるでしょうか。おおきく、3つの柱に分けて考えていくとわかりやすいと思われます。
薬物療法
全般不安症(全般性不安障害)の薬物療法を考えるにあたっては、根治的なものではなく症状を緩和する補助的なものと考えるほうがよさそうです。
薬物療法を実施する上で有意義だとされるものは、一般に抗うつ薬に分類されるいくつかの薬剤で、とくに選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉の幾種類かについてが用いられることがあります(日本では保険適応外になります)。
不安症の治療に抗うつ薬?と疑問に思われる方もおられるかもしれませんが、抗うつ薬はその薬理作用から考えてみても不安緊張感を緩和する作用が期待できます。
ベンゾジアゼピン系と呼ばれる抗不安薬が用いられることもありますが、第一選択とはなりえず、少量を頓服的使用として処方されることが一般的です。
精神療法
薬物療法は上記で述べた通り、有効な治療選択肢のひとつですが補助的なものであり、全般不安症(全般性不安障害)の治療のにおいては薬物療法だけでなく精神療法、カウンセリングを並行しておこなうことが重要です。
精神療法にはさまざまな種類のものがありますが、主たるものとしては認知行動療法、行動療法などの技法を援用することが多いと思われます。また、より構造的に充分な時間をとってとりくんでいくためにはカウンセリングを並行していくことも有用な選択肢のひとつです。
患者さん自身が長年抱えてきた不安とそれによって生じる困難とを話し合っていくこと、またその不安を減らす方向に色々協力しながらとりくんでいくことが、全般不安症(全般性不安障害)の症状の軽減に働きます。
このように薬物療法だけでなく精神療法もあわせながら治療的経過を医療者と共に歩んでいくことがもっともよい治療方法となるといえます。
精神療法をする意義
- 安心して治療を続けられる
- 不安と付き合っていく心構えを涵養する
- ストレスにさらされたときの対処を考えられる
環境調整
薬物療法、精神療法の果たす役割について述べてきました。これらが主に本人に対する直接的な介入であったとするなら、環境調整とは主に本人を取り巻く(すなわち不安や恐怖を生み出す原因となる)環境因子を同定し、そちらに対する介入を試みるものになります。
本人の能力的背景を考慮することも重要ですが、周囲の環境面を調整することで軽減可能なものが存在するならば、周りの協力も得ながら環境調整を行えないかを検討することは有効です。
まとめ
- 全般不安症(全般性不安障害)では薬物療法は補助的なものであるが有用
- 全般不安症(全般性不安障害)では精神療法的介入を主に据えることが良い
- 環境調整を検討することは負担を減らす意味でも重要である