うつ病
目次
うつ病とは
誰でも気分のいい日や悪い日があり、どちらか一方だけしかない人生というのは存在しません。
何か良いことがあった時には、気分が良くなり、ついうきうきして楽しくテンションが上がって、おしゃべりになったりします。そして反対に、何か自分に悪いことが起こった場合には、いやな気分になり、落ち込んでテンションが下がってふさぎ込んでしまうことは正常な心理です。
しかしながら、その一線を超えてしまうときがあります。
感情、認知の面で明らかな異変が生じ、気分はよどみ考えは同じところばかりぐるぐる回り、ひどくなれば考えることすらままならなくなります。また食欲も落ち自律神経症状もまれでなく認めるため身体的にも追い詰められてゆくことになる病気です。
日本においてはおよそ100人いれば6人程度が生涯の中でうつ病にかかると言われています。
うつ病の症状、診断基準
うつ病のときには、下に示すような抑うつ症状と言われる症状が散見され、それが長期間続くために日常生活に支障をきたします。
しかも思考面にもさまざまな影響を来すため、中には自分で自分のことを病気と思えない、またはこの状況を自分のせいだと責めてしまったりするような状況を来すことがあります。
うつ状態のときにみられる症状の例
- 憂うつで気持ちが沈む
楽しいという感情も感じられなくなりますが、ひどくなると悲しいという感情も感じられなくなることがあります。 - ほとんどのことに対する興味を失う
- 眠れない
結果として夜に色々考え込んだりして余計にしんどくなります。
寝つきの悪さ、途中で目が覚める、早くに目が覚めるなど症状は様々です。 - 自分のことを責めがちになり、価値が無いように感じる。
- 集中力が低下し物事を決められなくなる。
- 「この世から消えたい」「死にたい」などの考えが頭を占める。
はじめてうつ症状がみられたとき、それが本当にうつ病と診断してよいのか、あるいは躁うつ病(双極性障害)のうつ病相なのかといった点には慎重になる必要があります(➡双極性障害(躁うつ病)のページへ)。
その理由は治療の組み立て方、薬物療法の選択や、これからの見通しの説明などが変わってくるためです。こういった気分の症状の程度やいままでの病歴や生活歴などを見極めながら適切な治療を考えていくことになります。
診断基準について
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A. 以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている。これらの症状のうち少なくとも1つは (1) 抑うつ気分、または (2) 興味または喜びの喪失である。
(1) その人自身の言葉(例: 悲しみ, 空虚感, または絶望を感じる) か 他者の観察 (例: 涙を流しているように見える) によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分
(2) ほとんど1日中、ほとんど毎日のすべて、またはほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退 (その人の説明、または他者の観察によって示される)
(3) 有意の体重減少、または体重増加 (例: 1カ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の食欲の減退または増加
(4) ほとんど毎日の不眠または過眠
(5) ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的感覚ではないもの)
(6) ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退
(7) ほとんど毎日の無価値感、 または過剰であるか不適切な罪責感
(8) 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる (その人自身の説明による.または他者によって観察される)
(9) 死についての反復思考 (死の恐怖だけではない)、特別な計画はないが反復的な自殺念慮、または自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画
B. その症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
C. そのエピソードは物質の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。
D. 抑うつエピソードは、統合失調感情障害、統合失調症、統合失調症様障害、妄想性障害、または他の特定および特定不能の統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群によってはうまく説明されない。
E. 躁病エピソード、または軽躁病エピソードが存在したことがない。 注: 躁病様または軽躁病様のエピソードのすべてが物質誘発性のものである場合、 または他の医学的疾患の生理学的作用に起因するものである場合は、この除外は適応されない.
まとめ
- うつ病は気分、思考面でいろいろな症状を認める。
- 自分が病気であると気づけず受診に至らない場合がある。
- 躁うつ病(双極性障害)とは治療が異なるので慎重に判断していく必要がある。
うつ病の原因
うつ病の根本の原因というのは、いまだ不明です。しかしながら部分的にわかっていることは存在しており、感情や意欲を司る脳のネットワークの障害が起きているようです。
これには本人のもともともつ内的要因、ストレスなどの外的要因などが複雑に影響しあったうえでうつ病といえるような状況が生まれていると考えられます。
環境的要因、すなわちストレスとなるライフイベントの蓄積や、アルコールや違法薬物などの薬剤的因子も症状の増悪に関与する可能性が示唆されています。
遺伝的な要因は無関係ではありません。うつ病を有する患者さんの親族には、より高い頻度でうつ病がみられるとされます。しかしながらその遺伝要因はとても大きなものとは言えないようです。
また男性よりも女性に多いとされますがその原因も定かではなく、内分泌学的要因(ホルモン)の影響も部分的にはあるのかもしれません。
うつ病はストレスの多寡によって症状が悪くなったり良くなったりすることがあるため、ストレスは重要な因子となります。たとえ症状が改善傾向にあっても、自分に負荷をかけすぎたり、あるいは家庭環境で安らげる状態が全くない(High-EEと呼ばれます)場合、再発しやすい状態になると思われます。
まとめ
- うつ病の根本的原因は不明のまま
- 遺伝的要因、内分泌的要因、環境的要因が関係するとされる
- 再発を防ぐためにはストレスの少ない状態を目標とすることが大事
うつ病の治療
うつ病の治療では、いろいろな方法を駆使しながら、症状の軽減および再発の予防をはかります。治療の目標は大きくいくつかの段階に分かれます。
治療の目標とされるもの
- うつ状態から回復する。
- 少しずつ日常生活を送ることができる。
- 就労など社会的生活を送ることができるようになる。
これらを達成するために、その治療方法にはどのようなものが考えられるでしょうか。おおきく、3つの柱に分けて考えていくとわかりやすいと思われます。
薬物療法
うつ病の治療を考えるうえで、大事なもののひとつになります。うつ病が軽症であれば必須ではなく、使うとしても少量、ないしは補助的な漢方薬などを併用しながら、治療の主軸である精神療法と環境調整を検討します。
中等症~重度であれば薬物療法の貢献度が高まってくるため、他の治療との併用を行うことがすすめられます。
うつ病の薬物療法にあたっては抗うつ薬と呼ばれる薬が一般に用いられます。ほかにも治療の補助として、気分安定化薬、抗精神病薬、抗不安薬、漢方薬などといった薬剤が用いられることもあります。
抗うつ剤
- エスシタロプラム(レクサプロ®)
- セルトラリン(ジェイゾロフト®)
- ボルチオキセチン(トリンテリックス®)
- デュロキセチン(サインバルタ®)
- ベンラファキシン(イフェクサー®)
- ミルタザピン(リフレックス®)
…など。
気分安定化薬
- 炭酸リチウム(リーマス®)
- バルプロ酸(デパケン®)
- ラモトリギン(ラミクタール®)
- カルバマゼピン(テグレトール®)
…など。
抗精神病薬
- アリピプラゾール(エビリファイ®)
- クエチアピン(セロクエル®)
- オランザピン(ジプレキサ®)
- スルピリド(ドグマチール®)
…など。
これらの薬のなかで自身にあったものを主治医と探していくことが大事です。
薬と上手に付き合っていくために知っておいていただくとよいものがあります。それが薬の効き方です。
例えば頭痛のときに飲む痛み止めは、100ある痛みを一時的に10や20にする力があって、場合によってはゼロにできることもあるかもしれません。しかしながら抗うつ薬については今言ったような痛み止めのような効果は残念ながらないのが実情です。
抗うつ薬は、症状を確かに減じてくれる効果は有していて、100あるしんどさはきっと70になるでしょうし、50になって、場合によっては30になることも期待できますが、そのしんどさをゼロにできる薬ではありません。これはうつ病にかかられて治療をする患者さんにとってはひどく落胆される方もいるかもしれません。
しかしながら、抗うつ薬はいまにも溺れて沈んでいきそうな人の浮き輪にはなります。いまにもつまづいて転びそうな人の松葉杖にはなります。ふらふらして倒れそうな自転車の補助輪にはなれます。そういった、本当にあぶないときの下支えをしてくれるだけの効果はある、そう考えるのが最もイメージとして近いのではないかと考えます。
溺れる中での浮き輪にはなれるのでしんどさの軽減はできるけれども、海から陸に上がれるだけの力はありません。しかしながら、浮き輪の助けを借りることでようやく「考える頭」が戻ってくる、そうすることでようやく陸へ向かっていく方法を考えていく心の余裕が生まれてくるかもしれません。
薬を安心して使っていく中で大事なことのひとつに副作用があります。
副作用のない薬は存在しませんが、副作用を極力起こさないようにする、起こったとしても早めに気づいて対処するということはとても大事なことです。
副作用が起きていないかを確認するために、場合によっては血液検査を行ったり、心電図検査を行ったりすることもありますので、受診した際に気になることがあったら相談することが望ましいです。
精神療法
薬物療法は上記で述べた通り、うつ病の治療において重要な1つの柱となります。うつ病治療のもう1つの柱は、精神療法といわれるものをフルに活用したものとなります。
うつ病を有する患者さんは、その症状の度合いにもよりますが、思考面・認知面においてもひとつの考え方にとらわれてしまってそこから抜け出せなくなってしまったり、不安や恐怖のため頭の中で同じことをぐるぐると考え続けてしまったり、あるいは〇〇でなかったらもう○○するしかないというようなゼロか百かのような思考にはまってしまったりすることがあります。
あるいはストレスに対処しようと思っても、その対処法がうまく機能しなかったために余計に泥沼にはまっていってしまうこともあります。
精神療法には、さまざまな種類のものがありますが、主たるものとしては認知行動療法、行動療法、対人関係療法などといったものが有名ではあります。そのような療法の考え方を援用しながら外来で段階的に治療をすすめていくことが有効であると考えられます。
また、より構造的に時間をとってとりくんでいくためにはカウンセリングを並行していくことも有用な選択肢のひとつです。
このように薬物療法だけでなく精神療法もあわせながら治療的経過を医療者と共に歩んでいくことがもっともよい治療方法となるといえます。
精神療法をする意義
- 安心して治療を続けられる
- (家族にとって)安心して支援ができる
- ストレスにさらされたときの対処を考えられる
環境調整
薬物療法、精神療法の果たす役割について述べてきました。これらが主に本人に対する直接的な介入であったとするなら、環境調整とは主に本人を取り巻く(すなわちストレス因を生み出す原因となる)環境に目を配り、医療の枠組みをはなれた場所での支援を考えることです。
うつ病のために一時的に休職せざるを得なくなった場合には職場訓練プログラム受講をはじめとするさまざまなリハビリテーションを行うこともそうですし、あるいは生活の場を話し合っていくことも環境調整のひとつです。
学校でのしんどさが引き金になった場合には、学校での過ごしやすさを先生を交えて検討したりすることも環境調整です。
環境調整を行うこと
- 社会復帰していくためのサポートを行う
- 生活の場を安定したものにするようサポートを行う