適応障害
目次
適応障害とは
昨今、適応障害という疾患名がネットニュースやTVでもとりざたされることが増えています。
適応障害とは、明白なストレスにさらされている人が、そのストレスに反応して、気持ちや行動面での様々な症状(たとえば抑うつ、不安、イライラなど)を示すもののことを言います。
似たような状態を示すものとしてうつ病がありますが、その症状の強さや種類、持続期間、ストレス因の存在など、さまざまな観点から慎重に診断を行います。
適応障害の症状
適応障害はその性質上、ストレス因子がまず存在していることが必要ですが、症状はすぐに出現するとは限りません。
そのストレス状況にさらされはじめて週単位で症状が見られることもあれば、月単位でようやくジワジワと症状が出現することもあります。それにはストレスの強さや、個人的な耐性なども影響するかもしれません。
そしてストレス因子が解消することで徐々にそれらの症状は消退していくことが求められます。
しかし裏を返すと、ストレス因子が無くならない限りは症状は慢性化しうることが懸念されます。
ストレスに対して、それにさらされた個人が耐えられず、適応できなくなったその反応として様々な症状が出現するので、適応障害でみられる症状は個人によって様々です。
抑うつを伴うもの
適応障害の結果、抑うつ症状をともなうことが多いです。
抑うつ症状には、抑うつ気分(一向に晴れない気分)、涙もろさ、絶望感などいろいろな症状がみられることがあります。
不安を伴うもの
不安もまたよく見られる症状のひとつです。
不安の表現型として、動悸などの身体症状や、神経過敏、焦燥感などの症状が見られることもあります。
素行面の問題を伴うもの
ストレスにさらされた結果として、社会的な素行面での問題が噴出することがあります。
年齢相応の社会的規範の守れなさといってよいかもしれません。
具体的には、無断欠勤、破壊行為、暴力行為などがあげられます。
その他
その他にも、ストレスに対するあまり典型的でないいろいろな反応がみられることがあります。
身体疾患、たとえば癌などの命に係わる疾患の告知後に、それを強く否認する(「いや、私が癌にかかるわけはない。病気ではありませんよ」)であるとか、見た目には目立たずあまり抑うつや不安症状も見られないもの、引きこもり状態になってしまうなどが挙げられます。
診断基準について
詳しく見る
A. はっきりと確認できるストレス因に反応して、そのストレス因の始まりから3か月以内に情動面または行動面の症状が出現
B. これらの症状や行動は臨床的に意味のあるもので、それは以下のうち1つまたは両方の証拠がある。
(1) 症状の重症度や表現型に影響を与えうる外的文脈や文化的要因を考慮に入れても、そのストレス因に不釣り合いな程度や強度をもつ著しい苦痛
(2) 社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の重大な障害
C. そのストレス関連障害は他の精神疾患の基準を満たしていないし、すでに存在している精神疾患の単なる悪 化でもない。
D. その症状は正常の死別反応を示すものではない。
E. そのストレス因、またはその結果がひとたび終結すると、症状がその後さらに6か月以上持続することはない。
まとめ
適応障害の症状は、ストレス因にさらされたあとすぐ~数か月してみられることがある。
適応障害の症状は様々であるが、うつ症状、不安症状がみられることが多い。
時には、素行面での問題や病状の否認といった症状を認めることも。
適応障害の原因
適応障害はその性質上、ストレス因子がまず存在していることが必要ですが、症状はすぐに出現するとは限りません。
そのストレス状況にさらされはじめて週単位で症状が見られることもあれば、月単位でようやくジワジワと症状が出現することもあります。
それにはストレスの強さや、個人的な耐性なども影響するかもしれません。そしてストレス因子が解消することで徐々にそれらの症状は消退していくことが求められます。
しかし裏を返すと、ストレス因子が無くならない限りは症状は慢性化しうることが懸念されます。ストレスに対して、それにさらされた個人が耐えられず、適応できなくなったその反応として様々な症状が出現するので、適応障害でみられる症状は個人によって様々です。
例えば、ペットを亡くすという出来事ひとつをもってしても、事故で突然失うのか、天寿を全うするのか、長く病気で苦しむのを目の当たりにしたのかではそのストレスの大きさは違うかもしれません。
またはその死別に際してそのペットが、天涯孤独であった自分の唯一のパートナーと言えるほど大きな存在であったか、そのペットの死を共に悲しんでくれる家族がいるか、などほんとうにさまざまな背景が存在しえます。
その出来事が10歳のときだったか、70歳のときだったか、でも変わるかもしれません。
ストレス因子は離婚や失業、ガンの罹患などのようなライフサイクルの中で単発に生じるものもあれば、それらが組み合わさって複合的なものとなることもあります。また、一過性にすぎるものもあれば、長期慢性につづくもの(家庭内の不和など)もあります。また災害などがあった場合には、集団での適応障害がみられます。
まとめ
適応障害の原因となるストレスにはその程度や環境、個人的因子などさまざまなものが関与する。
ストレスの内容によって一過性のものもあれば長期に持続するものもある。
適応障害の治療
適応障害をひとたび発症したとして、その治療方法にはどのようなものが考えられるでしょうか。おおきく、3つの柱に分けて考えていくとわかりやすいと思われます。
薬物療法
現時点では、適応障害を改善させうる充分効果のあるとされる薬物療法はありません(と考えてよい)。
これは、薬物療法をやる意味がないというわけではないことに注意が必要です。
根本の治療を薬物療法で十分に達成することはできないだろうという話で、その当座をしのぐための一次的な薬物療法という観点においては、薬物療法が果たす役割は大いにあると考えても良いと思われます。
腰椎ヘルニアの痛みで苦しんでいる時に、確かに根本的な治療は手術をすることであって薬を飲むことは治癒には繋がらないかもしれません。それでも、痛み止めを飲んで多少なりとも痛みが和らぐことは、腰痛で悩むその人の苦痛を少しでも緩和してひとまずの生活しやすくしてくれるかもしれません。適応障害に対する薬物療法というものの立ち位置は、このようなものになると考えられます。
不安が強い状態なら、不安を和らげる抗不安薬をとん服として用いていくことなどは一時的な底支えとしての役割を果たすことが期待できます。ストレスにさらされ抑うつ的になっている場合には、抗うつ薬が浮き輪としての役割を担うことがあるかもしれません。もちろん錠剤による治療のほかにも、その人の病像に応じた漢方薬を使用することも、適応障害の治療においては有効であることがあるので、主治医と相談して頂くことが大事であると思われます。
精神療法
薬物療法は上記で述べた通り、(有効でもあるけれども)あくまで補助的な治療です。
適応障害の治療の主体は、精神療法といわれるものをフルに活用したものとなります。
ストレス因による症状を考える場合、例えば同じ叱責という出来事をとっても、そのために萎縮して会社に行けなくなる場合もあれば、それで奮起して見返そうと躍起になる場合もあり、個人個人でその主観的体験は異なるものとなります。あるいは、個人内においても、その時々によっては、似たような出来事に対する主観的体験が異なる場合があるかもしれません。
そのストレス因に対して、適応障害を起こしてしまった本人が、いかに不適応を起こしてしまったか、その背景を共に振り返りながら、それが本人の従来からの行動や気質的背景に由来していたものなのか、あるいは対人関係のパターンにおいて問題はなかっただろうか、本人の得意不得意なものごとに影響されていないだろうかと、多面的に判断し、それを本人へフィードバックしていきながら、治療的経過を共に歩んでいくことがもっともよい治療方法となるといえます。
環境調整
薬物療法、精神療法の果たす役割について述べてきました。これらが主に本人に対する直接的な介入であったとするなら、環境調整とは主に本人を取り巻く(すなわちストレス因を生み出す原因となる)環境因子を同定し、そちらに対する介入を試みるものになります。
本人の能力的背景を考慮することも重要ですが、周囲の環境面を調整することでストレス因子が軽減可能なものであるならば、周りの協力も得ながら環境調整を行えないかを検討することは有効です。
会社では、あるいは学校では?どのような配慮を加えることが現実的に可能であるのか、いわゆる合理的配慮を実施できるのか?を検討しながら、介入を行います。
まとめ
適応障害を直接改善させる薬剤というものはない
しかしながら、生じる症状を緩和させるための薬物療法には意味がある
精神療法、環境調整をフルに活用することが大事