統合失調症

統合失調症とは

統合失調症はいまだ根本的な発症原因の不明な精神疾患のひとつで、思考や知覚における幻覚や妄想などの症状および感情や意欲の減退、そしてある程度の認知機能の低下を経過中に認める症候群であります。

原因不明ながらもおおよそ人口の1%前後は統合失調症を発症し、その治療に取り組んでいます。かつては精神分裂病とも呼ばれ治療の選択肢も多くはなかった疾患になりますが、現在ではすこしずついろいろな選択肢が登場してきています。

統合失調症の症状、診断基準

統合失調症は比較的若い年代で発症することの多い疾患ではありますが、症状はじわじわと進んでいくことが多いとされます。
いわゆる「前駆期」と呼ばれるものですが、その時期には「何だかよくわからないけれど雰囲気が変わった」「理由はわからないけれど急に不安が強くなった」などのように一見それとはわからないような非典型的な症状がみられます。その後徐々に統合失調症の主症状が前面に出てきます。

1.幻覚

統合失調症の主症状のひとつです。まわりには知覚できないものを自分だけが知覚してしまうもので、特に多いものは幻聴(聴覚)であるとされます。

幻覚の例

  • 一人でいるのに、誰かの声が聞こえる
  • 大勢の中にいると自分の悪口を言う声が聞こえる(実際には言われていない)
  • 自分の一挙手一投足を指摘するような声が頭の上から聞こえる

幻覚の中では幻聴がもっとも多くみられるものになりますが、その他にも幻視(視覚)、幻嗅(嗅覚)、幻触(触覚)といった他の感覚器官の症状や、体感幻覚とよばれる体内で通常感じることの無い異常感覚を認めることもあります。

2.妄想

妄想もまた統合失調症でよく見られる症状のひとつです。「実際にそんなことはないのに、そうとしか思えない」そんな考えに頭がとらわれてしまうことを言い、その内容は全く理解できないような内容から、(私にはそう思えないが)確かに今の本人の状況ならそう思ってもやむを得ないだろうと思えるような内容まで、さまざまです。

妄想の例

  • 世界中の皆が自分の命を狙っていることを知った
  • 自分から漏れ出るにおいが周りに迷惑をかけている
  • 水道に毒を混ぜられていて水を飲めない

3.陰性症状

発症当初はあまり目立ちませんが、感情表出の減少、モチベーションの減退といった「もともとは存在していたものが減っていく」という症状が出ることがありこれらを総称して陰性症状と呼んでいます。

確かに上記1、2のような症状はとてもインパクトの強いものになりますが、治療に伴い改善していくなかで目立たなくなっていくことが期待できます。
その一方で、感情のアップダウンが減少し、自発性が乏しくなる、あるいは社交的でなくなる、といったような陰性症状が徐々に出現することで、むしろこちらの方が社会復帰を妨げてしまう要因となってしまうこともあるため慎重な観察が必要です。

4.認知機能の問題

その他にも、診断基準にはふくまれていませんが、統合失調症を有する患者さんの多くには認知機能のハンディキャップが生じることが分かっています。

認知機能の問題と言っても認知症のような記憶力の問題というわけではなく、記憶以外の領域、たとえば注意機能、ワーキングメモリ(作業記憶)、遂行機能といった領域の低下を徐々に認めるとされます。

診断基準について

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A. 以下のうち1つまたはそれ以上、おのおのが1カ月間ほとんどいつも存在する。これらのうち少なくとも1つは(1)か(2)か(3)のどれかである。

(1) 妄想
(2) 幻覚
(3) まとまりのない発語
(4) ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動
(5) 陰性症状

B. 障害の始まり以降の期間の大部分で、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能のレベルが病前に獲得していた水準より著しく低下している(または、小児期や青年期の発症の場合、期 待される対人的、学業的、職業的水準にまで達しない)。

C. 障害の持続的な微候が少なくとも6カ月間存在する。この6カ月の期間には、基準 A を満たす各症状は少なくとも1カ月存在しなければならないが、前駆期または残遺期の症状の存在する期間を含んでもよい。これらの前駆期または残遺期の期間では、障害の徴候は陰性症状のみか、もしくは基準 A にあげられた症状の2つまたはそれ以上が弱められた形(例: 奇妙な信念、異常な知覚体験)で表されることがある。

D. 統合失調感情障害と「抑うつ障害または双極性障害、精神病性の特徴を伴う」が以下のいずれかの理由で除外されていること。
(1) 活動期の症状と同時に、抑うつエピソード、躁病エピソードが発症していない。
(2) 活動期の症状中に気分エピソードが発症していた場合、その持続期間の合計は、疾病の活動期および残遺期の持続期間の合計の半分に満たない。

E. その障害は、物質(例: 乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。

F. 自閉スペクトラム症や小児期発症のコミュニケーション症の病歴があれば、統合失調症の追加診断は、顕著な幻覚や妄想が、その他の統合失調症の診断の必須症状に加え、少なくとも1カ月存在する場合にのみ与えられる。

まとめ

  • 統合失調症の症状は、主だったものがみられる前にも徐々に進行する。
  • 幻覚や妄想のほか、陰性症状や認知機能症状にも注意が必要。

統合失調症の原因

統合失調症の根本の原因というのは、上にも書いた通りでいまだ不明です。しかしながら部分的にわかっていることは存在します。

大きくは遺伝的要因と環境的要因とがあわさって発症するのではないかと考えられていますが、養育環境などが主たる原因で起きる病気ではなく、脳内の変化によって生じる生物学的な疾患であるという共通理解があります。

遺伝的要因

  • 統合失調症の家族やきょうだいを有する人では、発生リスクが高まるとされます。
  • 一卵性双生児の1人が統合失調症の場合、もう1人の発生リスクは高まるとされます。

環境的要因

  • 妊娠中の母親の(一部の)ウイルス感染、胎児の低酸素状態、早産などの周産期や分娩時の問題
    では、発生リスクが高まるとされます。

ストレス因子は統合失調症の方においても、ストレスの多寡によって症状が悪くなったり良くなったりすることがあるため、重要な因子となります。たとえ症状が改善傾向にあっても、自分に負荷をかけすぎたり、あるいは家庭環境で安らげる状態が全くない(High-EEと呼ばれます)場合、再発しやすい状態になると思われます。

まとめ

  • 統合失調症になる根本の原因は不明のまま
  • 遺伝的要因、環境的要因が関係するとされる
  • 再発を防ぐためにはストレスの少ない状態を目標とすることが大事 

統合失調症の治療

統合失調症の治療では、薬物療法をおこなうことが最も重要で、薬物療法を適切に実施していくことで症状の軽減をはかります。治療の目標は大きくいくつかの段階に分かれます。

治療の目標とされるもの

  • 精神病症状(幻覚や妄想)が軽減される。
  • 日常生活を送ることができる。
  • 就労など社会的生活を送ることができるようになる。

これらを達成するために、統合失調症をひとたび発症したとして、その治療方法にはどのようなものが考えられるでしょうか。おおきく、3つの柱に分けて考えていくとわかりやすいと思われます。

薬物療法

統合失調症の治療を考えるうえで、もっとも大事なもののひとつになります。薬物療法の開始が早ければ早いほど、結果も良くなると考えられます。
幻覚や妄想などに悩まされている状態を軽減、消失させるために用いられるものは抗精神病薬と言われるものになります。抗精神病薬にはたくさんの種類があり、薬の出てきた時代に応じて大きく2種類に分けられることが多いです。

第1世代抗精神病薬(比較的昔からあるもの)

  • クロルプロマジン(コントミン®)
  • ハロペリドール(セレネース®)

…など。

第2世代抗精神病薬(比較的最近にでてきたもの)

  • リスペリドン(リスパダール®)
  • ブロナンセリン(ロナセン®)
  • オランザピン(ジプレキサ®)
  • アリピプラゾール(エビリファイ®)
  • ブレキシピプラゾール(レキサルティ®)
  • ルラシドン(ラツーダ®)

…など。

これらの薬のなかで自身にあったものを探していくことが大事です。
飲み薬が基本ですが、最近では新しい選択肢も増えてきています。骨粗鬆症などからだの治療の薬でも似たようなタイプのものがあるのですが、月に1度、なかには3月に1度の筋肉注射をするというものです。注射剤をメインにすることで、内服の手間を省けることをはじめとしたメリットもありますので、興味のある患者さんは相談してみることも一手です。

薬を安心して使っていく中で大事なことのひとつに副作用があります。
副作用のない薬は存在しませんが、副作用を極力起こさないようにする、起こったとしても早めに気づいて対処するということはとても大事なことです。副作用が起きていないかを確認するために、場合によっては血液検査を行ったり、心電図検査を行ったりすることもありますので、受診した際に気になることがあったら相談することが望ましいです。

精神療法

薬物療法は上記で述べた通り、統合失調症の治療においてもっとも重要なものとなります。

精神療法(心理療法)的関わりが急性期の統合失調症を改善させることは期待できません。しかしながら統合失調症の患者さん、そしてその家族さんにとっても、安心して薬を継続していけるように、また安心してサポートをしていけるようにしてもらうにあたって、病気のことを知り、病気を悪化させることのあるストレスとその対処法を学んでいくことは重要であります。

そう考えると通院を続けるなかでも心理教育やコーピングの習得、気持ちの落ち着かせ方などをはじめとした精神療法にとりくんでいくことには大きな意味があると考えられます。

精神療法をする意義

  • 安心して治療を続けられる
  • (家族にとって)安心して支援ができる
  • ストレスにさらされたときの対処を考えられる

環境調整

薬物療法、精神療法の果たす役割について述べてきました。
これらが主に本人に対する直接的な介入であったとするなら、環境調整とは主に本人を取り巻く(すなわちストレス因を生み出す原因となる)環境に目を配り、医療の枠組みをはなれた場所での支援を考えることです。

統合失調症のために一時的に休職せざるを得なくなった場合の職場訓練プログラム受講をはじめとするさまざまなリハビリテーションを行うこともそうですし、あるいは生活の場を話し合っていくことも環境調整のひとつです。

環境調整を行うこと

  • 社会復帰していくためのサポートを行う
  • 生活の場を安定したものにするようサポートを行う

院長 三木 祐介

(みき ゆうすけ)

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医師より一言

統合失調症という病気は100人に1人ほどの割合でみられる「ありふれた」病気であり、まだその発症原因などはよくわかっていないという状況ではありますが、薬物療法をしていくことで症状をゼロにはできないまでも、ゼロに近づけていくことはできるようになってきています。

治療薬もさまざまな種類がありますが、副作用の生じる可能性もゼロではない中でありますので、ご自身にあったものをさがしていくこと、そして薬を飲み続けるということは本当に大変な作業です。

また薬が大事なことはその通りなのですが、それと同じくらい大事なことは生活の上で安心できる環境を整えることです。生活の不安、就労の不安、家族の不安、そういったものをひとつひとつ軽んじることなく、取り組んでいけるお手伝いをしていくことが外来での主な役割になると考えています。

仮想のケースを見ながら良くなる過程をみていきましょう。

#いろいろな嫌がらせで困っている #眠れない

20歳台前半の○○さん(仮名)は昨年に「ネットやTVで自分の情報がばらまかれている」「職場でも遠くの方からひそひそ悪ぐちを話されている」と家族に訴えましたが、家族やまわりが見る限り何ら本人に関わりのないことでした

そのときに受診した病院で統合失調症と診断されて内服治療を行ったところ、翌々月頃にはそういった考えは落ち着き、そういった情報漏洩にまつわる恐怖や不安感からは解放された生活を送ることができていました。
いっときは職場も休むことになりましたが、それでも上司や同僚の理解も良く、復帰してからも熱心に働いていました。

ところがこの1カ月、多忙のために内服を忘れがちになって以降は、眠れなくなってきました。
夜にふたたびネットをする時間が増え、やや部屋が散らかりだし、家族は内服の再開を勧めましたが、「薬をなくしてしまって手元にないから」「次の受診からちゃんと飲むから」と飲まないまま1週間が過ぎました。
その頃からは再び「ネットの動画配信で自分の悪ぐちをずっと流されている」「これは自分のことだ」と話し出したため、家族は症状がぶり返してしまったことを心配しています。

なんとか家族の説得のもと再受診を果たしましたが、いま一番困っていることは「眠れないこと」だと話し、「悪口を流されていること自体は問題ではない」と話しました。

やり取りを続けるうち、いままで飲んでいた薬は朝が眠すぎるために飲み続けることが苦痛であったこと、また職場でいちど同僚に持っている薬を見られてしまったこと、家族に何度も飲み忘れが無いか確認され続けたことなどが語られ、それらが内服を続けにくくなった要因であると考えられました。

良い薬をあらためて探していこうということ、場合によっては注射薬なども選択肢になるということを話し、別の薬を試してみることになりました。

家でのサポートの仕方も家族と協議し、それから2カ月たった今では、以前よりも症状が落ち着き、家での生活も比較的落ち着けるようになってきました。職場復帰についてもそろそろ相談しようと考えています。

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